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先日、大きなコンペの提出が終わった。
最終2週間から飛び込みデリバリを行うピンチヒッターの役割。

アソシエートx1
リードx1
シニアx2
新人AA卒x5  *1
インターンx2

計12人のプロジェクト

組織で最も必要とされる能力
それはチーム力である。そしてその台風の目になる馬力をもつことであり、ノットをデカくするチームを動かす力量である。本来大きなコンペは提出2週間前にデザインを辞め、プロダクションモードに入る。が、今回のアソシエートはその予定が組めていなかった。

--脚注--
*1: AA: ロンドンにある建築大学 事務所の大半がここを卒業している。
*2: Rhino: 設計の際に使われるプログラムソフト NURBSに強い。プラグインが充実している。
*3: MAYA:設計の際に使われるプログラムソフト ポリゴンとアニメーションに強い。
*4: 3Dプリント:通常の紙の印刷ではなく、立体を印刷する。粉、プラスチック、メタル、シリコン等といろいろある。
*5: STL: 3Dプリントをする際にモデルをきれいにし、拡張子に変える作業。モデリングしたときにその一つ一つの面には裏表があり、エッジには方向がある。これらを整え、抜け穴がない状態を作り出す。また、印刷する際に最低限の厚さ等があり、それを整える。線、面、立体でそれぞれ最小値は違う。
*6: BlackOnBlack: RGBの黒とCMYKの黒は違う色のためこれを統一する作業。
前回のプロジェクトの提出の疲労も抜けないまま、僕ら4人は最初の会議に乗り込んだ。このチームはヒッチャカメッチャカそのものだった。会議中も勝手な会話のやり取り。デザイン言語はグッチャグチャ、グリッドはあってないようなもの、隣接するチーム内とのコミニュケーションの取れていなささ。一目で気がついた。このチームの欠陥がどこから派生しているかが。長い長い会議は続き、リードは疲労を隠すことはなかった。

会議の最後にこういった。
「モデリングが汚い。全員。直角は直角。平行は平行、パラメトリックはパラメトリック。このままでは3Dプリント*4の工程で躓く。提出も恐らく無理だろう。デザインでのコミニュケーションが全く取れていない。AAから卒業してきた君らは今までライバルだったのかもしれないが、今は同じチームだ。プロとしてのチーム力は手を取り合った時にものすごい威力を発揮する。これを見る限り、好き勝手騒いでいる未熟なデザインでありチーム力が全く感じられない。」
俺は誰かが演じなればならない悪役を引き受けた。50後半のアソシエートとRhino*2しか使えないシニアのローレンから逃れるように新人の彼らは皆でMayaに逃げ込んだ。Maya*3に逃げ込めば誰にも何ともいわれないと勘違いしたのだろう。母国を離れた海外で、建築を仕事にするという事実、この事務所でのプロとしての自覚はまるでなってなかった。さーどうする。どう育てる。その後全体図を全員に送り、自分たちで考えるように促し、少しずつ手を取り合うデザインが生まれてきた。相談のメールやチャットも増えてきた。

3日後
また会議をやった。自分で考えられるやつと、そうでない人の歴然とした差が律儀に出ていた。彼らにはトップダウンの考えができていた。つまり問題なのはボトムアップでしか思考できない子たちだった。7人の新人とインターンを一つの方向にむかせるにはこの方法しかなかった。一番できないやつをコテンパにする。ハイリスクハイリターン。そして徹底的に教育して、ボトムアップからもチームを加速させる。ターゲットは定まっていた。会議の最後に「君のMAYAのモデルを開けてくれ」と言い「どこでもいいからエッジループをかけてくれ」と言った。案の定かからない。mergeをかけていいところとそうでないところ、ブリッジをした後に綺麗にしなければならないところ。それがまるでなっていなかった。「これはダメなモデルだ。あとで俺のデスクに来てくれ。全部徹底的に教える。」といいその会議は終わった。その後すべてのステップを最初から分解したファイルを目の前で作り、その子に渡した。「質問があればいくらでも答える。僕は君に教えられることがあればそれは喜び以上のものに値する。今日は一緒に座ってくれてありがとう。」恐らくそのあと彼女は泣きながら帰ったことだろう。が、俺は決めていた。このシェンという子をこのチームの救世主にしてみせると。素質も糞も才能も関係ない。自信なんて俺が植えつけてやると俺が勝手に決めたことだった。

次の日
共に前回戦ってきた新人のサマーンからチャットが来た。シェンの援護に回ってもいいかという内容だった。サマーンはすでに俺の徹底的な教育が植えつけられている子だった。そして自信もそれなりに芽を出し始めていた。

さかのぼること1ケ月前
サマーンと昼飯を食っていた日のことだった。
「べん、私本当はもっといろいろ聞きたいことがある。でも、べんの作業を邪魔するわけにもいかない。たまにわからなくなる。本当にくだらない質問もあって聞くのも恥ずかしいことが多すぎる。」
「あー、よくわかるよ。今のうちくだらない質問して、くだらないミスをいっぱいするべきだよ。俺の作業なんて大した内容でもないんだから好きなだけ、好きな時に聞けばいい。続けてれば俺が3年かかった内容は1年かちょっとですぐに到達するだろうね。こんな楽なことはないわなー。」
「でも、私はあのくだらない質問をするほど度胸がないのよ。」
「いいか。くだらない質問を10年後にするのと、今するのどっちがいい?お前は新人という立場だ。バカな質問をするのが仕事だ。それで金がもらえるんだ。こんないい話はない。だから俺に聞け。この事務所は新人をほったらかしにする。俺みたいに付きっきりで教えるバカもそういない。『あの手のくだらない質問をしてもいい(笑)?』とかいって切り出してくれればこっちもテンションあがるよ。」
「...」
「どうだ。俺が言ってるんだ。」
「分かったわ(笑)。(覚悟しなさい)。」

話は戻す
この差はすでに他の新人4人に比べ大きなものになってきていた。「おう。丸一日使っていいからシェンをサポートしてあげてくれ。」とサマーンに返事をした。その日が終わるころ確かに見覚えのある綺麗なモデルが送られてきた。自分の作業を中断し、直接会いに行って言った。「素晴らしいよ。やればできるじゃんかよ!Im so proud of you.」とうるせーぐらいに褒めた。「明日、君の力が必要だ。あいつとこいつがまだ分かってない。一緒に座ってサポートに回ってあげてくれ。」といいその日は終わった。1日でここまできたかー。たったの...予想以上にボトムアップからの加速は早く訪れた。

次の日また会議があった。
大量のチームへのプリントスクリーンのメールと徹底的なモデリングの教育により、綺麗なモデルがそろいはじめ、全体に屋根をかける俺のパートも出来上がっていたがバラバラなものはまだ腐るほどあった。が、どこまで揃え、どこまで自由度を保つかの話にやっとなった。ここからアソシエートのテイストが出始めるところだった。が、彼は50後半。MAYAなんて回転とパンができる程度だった。無茶ブリは続いた。レンダリングと、動画のためのモデリングのデータの送信の時間も迫りだしていた。

提出1週間前
サマーンをモデリングに残し、シェンを3Dプリントを作るSTL*5に残し、他全員をプロダクションモードにさせた。平面、断面を2人ずつのチーム。ダイアグラムをシニア、平面をシニアともう一人の子。俺の役割はパネルを作り全員の産物をまとめ上げる本来はリードかアソシエートがやる内容。リードはバックレる始末。全員の間を縫い、パニックを塞き止める作業が俺の役割だった。どこでパニックが起こるかは大体予想がついていた。STL、Black on Black*6、リンクの崩壊。この辺だろう。Indesignのリンクのファイル名をこっちから勝手に先に決めた。でなければ、リンク内がまた好き勝手なことになる。黒をRGBの初期設定のものに設定し、これらを全員にまた送った。が、このルールは人が多ければ多いほど守られないことは分かっていた。どう説明してもこの2つは崩される不思議な現象が起きるのは分かっていた。覚悟はメールを送る前からとっくにできていた。さて、STL。MAYAのモデリングは全員完璧だった。すぐにおわった。が、このプロジェクト、MAYAとRHINOの混合モデルだった。Rhinoを確認した。シニアの先輩にすべてを任せっきりだった俺の判断ミスだった。彼女はこのプロジェクトを最初からずっと見ている。すでに疲労は限界を1月前から過ぎていた。精神的にも、肉体的にも、モデルもボロボロだった。「君には借りがある。気にするな。」と一言だけ言って引き受けた。空中分解を覚悟した。事務所内にモデルを綺麗にする人がいる。ステゥワート。彼は3Dプリントを出すのが仕事だった。彼の援護も必要だった。データを送り、見せたが、あきれていた。方針を立てた。致命的な緊急手術が必要なタワーを彼に任せそれ以外を俺がやることになった。俺の深夜を含む2日間は簡単に消えた。

数日後
空中分解しないぎりぎりのところを走行していた。レンダリング、動画、3Dプリントは僕らの手元を完全に離れコンサルタントの元へ送信された。パネルに僕は戻ることができた。見えないところで誰かが踏ん張ってくれていたのだろう。そういう瞬間にチームを愛おしく思う。ありがとうと。
パネルを印刷する必要があった。が、既にデータは重くなり、俺のパソコンですら印刷を受け付けなくなった。ならば13枚を縮小してA0でだそう。それですらぎりぎりだった。出力で1時間。印刷だけで3時間。
不安になった。
ダイアグラムを増やす指示を出した。「さっきアソシエートからも同じことを言われて今作っています。」と返事があった。暗黙の領域だったのか、当たり前の指示だったのか分からないが、シンクロしていた。俺も13枚簡単にできる大きなレンダリングを用意した。捨て駒。歩兵はある領域を超えると金に変わり、玉座を支配する。

提出前日
既にA0に縮小した印刷も不可能だった。アソシエートに相談した。金をかけようと。近所に印刷屋があり、彼らに頼もうということだった。全員の作業をリアルスケールのままA0に切り貼りしたものを印刷しようと。テストプリントであった。すぐに賛成のGOサインが出た。数時間後、ものは印刷されていてすぐに渡し、予想以上に綺麗な仕上がりだった。いける。油断はできないが、気持ちが随分と楽になった。何時から印刷を開始するべきか逆算し、それを全員に伝えた。印刷は朝8時AM開始。終了3時PM。これを過ぎればすべてがポシャる。実際は5時である2時間のロスタイムをも換算した。

その日の夜
みなと食事の時間。だれもくだらない会話もする気もなく、ただ黙々と皆食事をしていた。全員の疲労はとっくにピークを過ぎていた。気まずいなんて全員が気がついている空気を切るようにアソシエートは言った。「2時AMで終わりにしよう。全員帰ろう。」俺は何も言わなかった。できるもんなら今すぐ帰りたいぐらいだった。

4時AM
全員いた(バックレを除く)。
朝8時AMから夕方3時まで誰かが生き残っていなければ全員で自滅することは見えていた。
朝部隊とこのまま続けられる部隊の2つに分かれた。
俺は椅子から立ち上がることもできず、当たり前のように作業を続けた。
アソシエートと最終チェックが入った。
不思議なことに彼は平気でレイアウトを変え、無茶ブリを要求し、気がつけば目を開けたまま横で彼は無様にも寝ていた。
終わりか...
このコンペで心の奥底でもっとも感情的になったのは恐らくここだろう。
--感情的になれば負ける--
--情熱的であれば貫ける--
そうだ。あれだ!捨て駒を並べ、玉座への王手をかけた。
「ビンビンしている人がほしい。」と呼びかけた。
4人いた。
2人に指示を出し、2人にここに残れと言った。
このままでは印刷は不可能だったため、ボードを分解し1枚ずつ近所に送るということを伝えた。

6時AM前
ダイアグラムを新しく作ったと1人が隣に座ってきた。
「ファイルの名前を教えてくれ」
といい、右のモニターから探し出した。
「えーっと...Diagram_grid_...何よこのファイルの数...」
「これでも足りないんだから困るよな。」
絶句。


6時AMあと2時間で送り始める。
と説明している横から1人は落ちた。起こす気もなく、何も言わなかった。
残ったのはシェンだった。そう救世主。彼女はもう歩兵ではない領域に入っていた。
「俺はこの瞬間が来たのがうれしいぞ。」
もはや意味不明だっただろう。
方針を2人で立て最高のものににじり寄っていった。

7時AM
まてよ、8時とだれが決めた?
すぐさま印刷会社に連絡をした。
「既に1枚送れる。今日の始業時間が知りたい。」
「まだ誰もいないがすでに送り始めて構わない。15分で開始できる。」
『印刷1枚目送信し始めました!』とやたら大きかったであろう声を出した。
1枚アベレージ30分。必ず問題があるものが出てくる...
断面はまだ更新していた。
更新していないものを聞きそれを分解した。
7時45分には送りたい。

7時50分
「待った!まだ断面は更新している。」
ブチギレそうになるところを静かに立ち上がり休憩しに行った。
この断面の二人はひどい。オリジンもめちゃくちゃ。ポリゴンの線も閉じない。ファイルは勝手な名前。いつまでも更新している。色気を使った女々しい言い訳が多い。何度言っても何かの病にかかったような作用の進め方だった。チーム全員が気がついていた。アソシエートにチクる気もなく、シカトこくことにした。
帰ってくると
「送信OKよ。」
どことなくひともんじゃくあったようだが、気にする時間はなかった。
『3枚送信!』
次まで1時間半ある...
確認に入った。
Black On Black*6の徹底的な確認が必要だった。
シェンが不思議なことを言い出した。
「Viewのところで確認できるわよ。」
「ん?」
「ここよここ。」
確かに確認できた。
やたらあった。
人を呼びかけた。
ピンピンはしていなかったが2人いた。
Blackの確認の指示を出した。
断面のBlackはもう後戻りができない状態になっていた。
全体に注意した回数3回。
個人的にメールした回数1回
個人的に呼び出した回数2回
迷わずシカトだった。何度言ってもわからないモノのヨゴレをこれ以上拭く気にはならなかった。
そして気になっていた一つのファイルの指示を別の一人に出した。この作成者も病にかかっていることは1週目に気がついていた。
「このファイルは2日間更新されていない。彼女のファイルの中に入り込んでくれるか?」
「べん、その作業結構おいしいね(笑)。」この時間帯に下ネタをかまし、全員爆笑だった。
そうこうしている横からシェンが3枚完了したと嬉しそうな返事が来る。
すぐに送る。
アソシエートからボロボロの声で待ったが入る。
「セクションのアノテーションが入っていない。止めろ!」
シカトをブッコいていた俺の責任になった。
メールをしたがすでに遅かった。
緊急オペにまた入った。
「まだ送っていない逆側に入れよう。」
すぐに解決した。

9時AM
残るところ4枚だった。
が、印刷会社に行っていたアソシエートから電話だった。
「平面の下のレンダリングが切れている。文字もずれている。」
俺の完全なミスだった。さすがに集中力はなくなり、ぎりぎりではない領域に入っていた。
横のシェンを見ると半分落ちていた。
俺もこのままでは危険だ。
クソッタレ。力が入らない。
...
朝部隊のオーロラが帰ってきた。
指示を出した。
ローレンも帰ってきた。
「ローレンは作業しちゃだめだ。ローレンは全体が見えているチームのパイプだ。作業は他の誰かができる。」
シェンを呼んだ。
「シェン、起きろ。そろそろそのパソコンの持ち主が帰ってくる。そのパソコンをシャットダウンしてこっちで一緒に作業をしよう。お前は乱れたものを探す目がある。構わないから俺に指示を出せ。」

ギリギリだった。
今思うとこの判断が10分遅れていたら全滅だった。
サマーンも帰ってきた
「すまん。もう指示がだせない。でも一緒にここで俺がミスらないか確認してくれ。」
4枚をシェンと送り、残り2枚の平面だけだった。
振り返れば4人近く俺の後ろにいた。
頭が働かない。
スペックが...

1時半PM
すべては送信完了した。
あとは待つだけだった。
梱包とDVDの送信をローレンに託した。
このへんはやたら記憶が薄い。
どうここにたどり着いたかはわからないが立ちあがった瞬間をよく覚えている。

提出する瞬間それは必ず訪れる。
これが勝つかどうかという鋭い直観が。
勝率は常に3割。

3年前の冬。
俺はある物件で自信を失った。

去年の秋
俺は自分に課した。
2年間であるレベルに達することを。
俺はこのコンペでそれに到達した。
| time 02:53 | comments(7) |

Comment
よかった。
さとぽんた | 2013/07/21 12:13 PM
よかった。。。
緊張感の伝わるドキュメンタリー。
俺も最近しかとが多い。少し反省と共感。
ken | 2013/07/24 11:05 PM
>さとぽん
ほんとよかったよ。もう二度とやりたくない。今日また別のが始まったけどね。

>けんさん
けんさんは次元がもっと高いところの方との付き合いですから大変ですね。
ルールを崩して本領発揮するタイプもいますからね。難しい。
ben | 2013/07/25 11:06 AM
いやいや。図面は3Dではなく、2Dだから次元は一つ下だよ。上司に至っては1D(喋りのみ)だ。
ken | 2013/07/26 8:53 PM
よかった。。。。。
映画化ものですね。
僕としては、バカな質問のくだりなんて心に染み入りました。笑
rihito | 2013/07/27 7:44 PM
Kenさん
そういう表現でいけば確かに...
でも実際50歳以上でプログラムの背景が分かって指示出せる人は少ないですね。

Rihito
この子達は恐らくRihito君と同じ年代だね。そう考えると親近感湧く。
Ben | 2013/07/28 8:05 AM
Rihitoへ
いくらでも質問できる先輩を探すといいよ。
精神的にも技術的に満たされた人ね。戦友として対等になれるまで日本は時間がかかるだろうけど。その上の上司は誰に指示を出せばいいかということを常に悩んでいるわけだから、そこが繋がり出すと組織として機能し出す。必要なのはそういう人材とメチャクチャ、テクニックが長けた人間とコネ持ってるやつ。普通の1人分の仕事量を超える人材ってことだね。

ってそちらの組織ならちゃんとした人がいるだろうけどね。うちはそんな組織構図はなくて勝手に自滅すればいいとしかみんな思ってないんだわ。昔は新人だけをコンペに放り込んでその中の数人だけを残してた。
Ben | 2013/07/28 9:00 AM














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